詩跡名 酔翁亭(スイオウテイ)
別称  
地理 安徽省滁州(じょしゅう)市
代表作 宋・欧陽脩「酔翁亭記」
訪問日 2005.9.6
関連語 譲泉豊楽亭
その他  
説明  北宋の官僚文人、欧陽脩は、慶暦5年(1045)、滁州の知事に左遷された。その翌年、琅瑘寺の僧智仙は、彼のために風景の美しい琅瑘山の麓に亭を作った。欧陽脩は、これを酔翁亭と名づけ、「滁を環(めぐ)りて 皆な山なり」で始まる名文「酔翁亭の記」を作り、まだ40歳であるのに自ら酔翁と号した。そしてしばしば賓客と一緒に、「翼然として泉上に臨んだ」酔翁亭を訪れては、なごやかな宴会を楽しんだ。「酔翁亭の記」にいう、「酔翁の意は、酒に在らず、山水の間に在るなり。山水の楽しみは、之を心に得て、之を酒に寓するなり」と。泉上とは、「山行六七里、漸(ようや)く水声の 潺潺(センセン)として両峰の間より瀉(そそ)ぎ出づるを聞く者は、譲泉(醸泉とも書かれる)なり」と書かれた、譲泉のほとりを指す。彼の「滁州の酔翁亭に題す」詩には、「但だ(ひとえに)愛す 亭下の水の、乱峰の間より来(きた)るを。声は空より落つるが如く、両簷(リョウエン)の前に瀉ぐ」という。今日、譲泉とされるものは、酔翁亭の前を流れる小さな渓流(玻璃沼)のほとりに湧き出た、正門(欧門)のそばにある山泉を指し、清の康煕20年(1681)、当地の長官王賜魁(オウシカイ)が刻した「譲泉」の文字が伝わる。ただ水音があまり響かないのは、環境が昔と変わったためなのであろうか。譲泉に対する疑問が生じる。(注1)

 明の永楽2年(1404)、滁州知事となった陳烱(チンレン)は、「酔翁亭記」を踏まえた「酔翁亭」詩を詠み、明の王世貞(16世紀後半)は、「滁陽に抵(いた)りて拱辰石(キョウシンセキ、石星、字拱辰)太僕の 将に至らんとするを聞いて留贈す」(2首その2、『弇〔エン〕州続稿』巻22)のなかで、「琅瑘の山色 四時(四季)妍(うつく)し、最も喜ぶ 清流 譲泉と号するを。前輩(欧陽脩)の風流 今又た見る、使君(石星) 剛(まさ)に及ぶ 酔翁の年(40歳)に」と歌い、明の于冕(ウベン)は「酔翁亭に遊ぶ」詩のなかで、ついに訪問できた喜びを、「平生 夢想を労し、今日 登臨を喜ぶ」と歌っている。
(注2)

 熱心に詩跡を探訪した清初の大詩人、王漁洋(士禛[シシン])は、康煕24年(1685)の5月28日、南海(広州)からの帰途、滁州に着くと、雨のなか酔翁亭や豊楽亭等を訪ね、五律「雨に酔翁亭に過(よ)ぎる」詩3首(『漁洋山人精華録』巻10)等を作った。時に52歳である。その1には、「門前 荇渓(コウケイ)の石、亭下 醸泉の流れ。禽鳥 鳴くこと何ぞ楽しき、松篁(ショウコウ、松や竹の林) 颯(サツ)として秋に似たり」とあり、その3には、「欧梅 池閣に映じ、半畝(の地に) 清陰を散ず」という。荇渓の石は、「即ち菱渓石」(作者の自注)、欧陽脩が菱渓(滁州城の東2・5キロの渓流)から三頭の牛に引かせて運んできたとされる岩をいう(現存)。また欧梅とは、欧陽脩の手植えとされる梅の木。亭の北にある高さ7メートルの古梅が、それであると伝える(後人が植え直したものともいう)。たとえ伝承にすぎないとしても、詩中に詠まれたものが存在するのは、きわめてうれしい。酔翁亭は、欧陽脩の名文「酔翁亭記」と彼の闊達な人柄を追慕する詩跡なのである。
(注3)

 現存する酔翁亭の建物は、清の光緒7年(1881)、全椒出身の薛時雨(セツジウ)が再建したものであり、二賢堂(欧陽脩と王禹偁[オウウショウ]をまつる祀堂、欧王二公祠)や宝宋斎(蘇軾筆の「酔翁亭記」の碑刻を保護する)などもある。酔翁亭自体も興廃を繰り返したが、しだいに付属の建築物ができて規模が拡大した。今日、北京の陶然亭・湖南の愛晩亭・蘇州の滄浪亭とともに、中国の四大名亭に数えられ、その筆頭に位置する。

 酔翁亭の西南200メートルのところには、欧陽脩紀念館(原名は「酔翁亭記」にもとづく同楽園)がある。

 ちなみに、欧陽脩は、慶暦6年(1046)、滁州の西郊にある豊山の北麓、 幽谷泉(宋の元祐2年〔1087〕、知事の陳知新が改修し、名を紫薇泉〔シビセン〕と変える
〔注4〕)のほとりに、豊楽亭を建て、「豊楽亭記」を書いた。ここは、酔翁亭に次ぐ、欧陽脩ゆかりの詩跡として、1996年、豊楽亭等が再建されたが、現在未開放で参観できなかった。早期の開放を切に望んでいる。

 (注1) 明初の洪武8年(1375)の歳末、滁州を通った宋濂(ソウレン)「琅瑘山に遊ぶ記」には、「泉の 両山の間より瀉ぎ出でて、流れを分かちて下る有りて、醸泉と曰う。潺湲(センカン)として清激、毛髪を鑑(み)るべし」(『文憲集』巻2)とある。 
 (注2) 姫樹明主編『滁州古詩文選読』(天馬出版、2004年)所収。
 (注3) 『漢詩の事典』第3章、滁州(西澗・酔翁亭)の条参照。
 (注4) 姫樹明・兪鳳斌(ユホウヒン)編著『琅瑘山』(黄山書社、2003年再版)59頁による。
(植木 久行)

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